純利益と営業CFの乖離
利益は伸びているのに現金が入ってこない状態。粉飾でなくても、危うさの前触れになる。
ひとことで言うと
帳簿の利益は増えているのに、実際に入ってくる現金が増えていない状態のことです。
もう少しくわしく
当期純利益と営業キャッシュフローは、どちらも「1年でどれだけ儲かったか」を表す数字です。
しかし、計算の仕方がまったく違います。
| 何を数えているか | |
|---|---|
| 当期純利益 | 売った時点で計上する。代金は未回収でもよい |
| 営業キャッシュフロー | 実際に入ってきた現金から、出ていった現金を引く |
ふつうの会社では、この2つは近い動きをします。売れば代金が入ってくるからです。
しかし、離れていくことがあります。
上の図の会社は、純利益が5期で30億円から70億円に増えています。教科書的な成長企業に見えます。
ところが営業キャッシュフローは、同じ5期で34億円から5億円に減っています。
帳簿では儲かっていますが、現金は入ってきていません。
実際の数字で見る
今期の中身を分解します。純利益から出発して、営業キャッシュフローにたどり着く形で並べます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 当期純利益 | +70億円 |
| 減価償却費 | +30億円 |
| 売上債権の増加 | −60億円 |
| 棚卸資産の増加 | −35億円 |
| 営業キャッシュフロー | +5億円 |
70 + 30 − 60 − 35 = 5億円
3つの項目が、なぜ足し引きされるのかを説明します。
減価償却費(+30億円) … 費用として利益から引かれていますが、現金は出ていっていません。 過去に買った機械の値段を分割して費用にしているだけです。だから足し戻します。
売上債権の増加(−60億円) … 売上には計上していますが、代金をまだ受け取っていません。 増えた分だけ、利益はあっても現金がありません。
棚卸資産の増加(−35億円) … 仕入れや製造にお金を使いましたが、まだ売れていません。 在庫として倉庫にあります。現金は出ていっています。
利益70億円のうち、65億円は「まだ現金になっていないもの」でした。
ここに注意
これが必ず不正を意味するわけではありません。しかし、必ず理由を確かめてください。
乖離には、問題のない理由もあります。
| 理由 | 問題の有無 |
|---|---|
| 急成長で、仕入れと在庫が先行している | 一時的なら問題ない |
| 大型案件の代金が期をまたいだ | 翌期に入ってくれば問題ない |
| 支払い条件を緩めて、売上を取りにいった | 注意が必要 |
| 押し込み販売で売上を作った | 危ない |
| 売れない在庫を抱えている | 危ない |
見分けるには、どの項目が乖離を作っているかを見ます。
| 乖離の原因 | 次に確かめるもの |
|---|---|
| 売上債権 | 売上債権回転期間が伸びていないか |
| 棚卸資産 | 棚卸資産回転期間が伸びていないか |
| その他 | 有価証券報告書のキャッシュフロー計算書の内訳 |
これらはすべて決算短信と有価証券報告書に載っています。 計算もかけ算と割り算だけです。
もう4つ、知っておいてください。
1. 何期ぶんかを並べてください。
1年だけの乖離なら、大型案件や在庫の積み増しで説明がつきます。
問題は、何期も続けて広がっている場合です。上の図のように、5期かけて差が開いているのは、一時的な事情では説明しにくい形です。
2. 逆の乖離もあります。
純利益は赤字なのに、営業キャッシュフローは黒字という会社があります。
これは多くの場合、減損や特別損失が原因です。現金が出ていかない損失を計上したために、帳簿だけが赤字になっています。
この場合、現金は回っています。 赤字という言葉だけで判断すると、逆の間違いをします。
3. 利益とキャッシュフローは、どちらも必要です。
「キャッシュフローだけ見ればよい」ということではありません。
| 弱点 | |
|---|---|
| 純利益 | 現金の裏づけがないことがある |
| 営業キャッシュフロー | 支払いを遅らせるだけで良く見せられる |
仕入先への支払いを翌期に回せば、営業キャッシュフローは増えます。両方を見ることでしか、実態は見えません。
4. フリーキャッシュフローまで見てください。
営業キャッシュフローから設備投資を引いたものがフリーキャッシュフローです。
事業を続けるために設備を買い続けなければならない会社では、営業キャッシュフローの全額が自由に使えるわけではありません。
そのうえで、この見方の位置づけを書いておきます。
決算短信の1ページ目で、この2つは必ず並んでいます。
決算短信の表紙には、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益が並び、キャッシュフローの欄もあります。
見るのに時間はかかりません。2つの数字を見比べて、方向が揃っているかを確かめるだけです。
| 状態 | 次にすること |
|---|---|
| どちらも増えている | ふつうの成長。特に問題なし |
| どちらも減っている | 業績が落ちている。理由を確かめる |
| 利益は増、CFは減 | この記事の内容。中身を確かめる |
| 利益は減、CFは増 | 減損などの可能性。中身を確かめる |
方向が揃っていないときだけ、深く調べればよいのです。すべての会社を細かく調べる必要はありません。
関連する言葉
- 営業キャッシュフロー 本業で実際に入ってきた現金。利益と違い、ごまかしが効きにくい数字。
- 売上債権回転期間 売ってから代金を受け取るまでの日数。急に伸びたら、売り方か回収に問題が起きている。
- 売掛金 売ったがまだ受け取っていない代金。回収できなければ、売上が損失に変わる。
- 棚卸資産(在庫) まだ売れていない商品や材料。増えすぎると、利益が出ていても現金が減っていく。
- 当期純利益 税金も引いた後、最終的に会社に残る利益。配当やEPSのもとになる。
- 最終更新
- 2026-09-18