プロスペクト理論
損失を利益の2倍以上の強さで感じる性質。損切りできない理由を説明する。
ひとことで言うと
人は、得したときの喜びより、損したときの痛みを強く感じるという性質のことです。
もう少しくわしく
心理学者のカーネマンとトベルスキーが示した考え方です。この研究で、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受けています。
分かったことは、大きく2つです。
1. 損失は、同じ額の利益より強く感じられます。
| 感じ方 | |
|---|---|
| 1万円もらった喜び | 1 |
| 1万円失った痛み | 2〜2.5 |
倍以上の重さで受け止めます。だから、損を避けようとする力が強く働きます。
2. 得しているときと損しているときで、態度が変わります。
ここが株の話に直結します。
| 状態 | とりたくなる行動 |
|---|---|
| 利益が出ている | 確実に確定させたい(危険を避ける) |
| 損失が出ている | 賭けに出たくなる(危険をとる) |
なぜこうなるのか。損を確定させたくないからです。
まだ売っていなければ、損は「確定していない」と思えます。売った瞬間に、それは「負け」になります。だから売れません。
実際の数字で見る
この2つの性質を合わせると、ある行動が出てきます。
| 状況 | 実際にとる行動 |
|---|---|
| +5%の含み益 | 早く売って確定させる |
| −5%の含み損 | 戻るまで待つ |
| −20%になった | もっと待つ |
| −50%になった | もう売れない |
これが繰り返されると、こうなります。
| 平均 | |
|---|---|
| 勝ったときの利益 | 小さい(早く確定するため) |
| 負けたときの損失 | 大きい(待ち続けるため) |
コツコツドカンの正体です。
数字にします。1回あたりの利確が+8,000円、損切りが−30,000円になったとします。
| 回数 | 合計 | |
|---|---|---|
| 勝ち | 70回 | +560,000円 |
| 負け | 30回 | −900,000円 |
| 損益 | −340,000円 |
勝率70%で、34万円の負けです。
勝率が高いのに負けるのは、腕が悪いからではありません。人間の性質どおりに行動した結果です。
ここに注意
「気をつける」では直りません。知っただけでは変わらないからです。
これは性格の問題ではなく、人間に共通する性質です。知っている人でも、実際に含み損を抱えれば同じ気持ちになります。
だから、対処は気持ちに頼らない形にする必要があります。
1. 買う前に、売る値段を決める。
含み損を抱えてから考えると、必ず甘くなります。まだ何も起きていないときなら、冷静に決められます。
2. 逆指値注文を入れておく。
決めた損切りの水準に、注文を先に出しておきます。 自分が判断しなくても執行されます。
判断する機会をなくすのが、いちばん確実な方法です。
3. 利確と損切りの幅を先に決める。
リスクリワードレシオの考え方です。損切りを−10,000円に決めたら、利確は+20,000円以上にする。利益を早く確定させたくなる力に、あらかじめ逆らっておきます。
もう2つ、関連する性質を挙げておきます。
1. アンカリング
最初に見た数字に引きずられる性質です。株では買値が、そのアンカー(錨)になります。
「1,200円で買ったから、1,200円に戻るまで待つ」
しかし市場は、あなたの買値を知りません。1,200円という数字に意味があるのは、あなたにとってだけです。
2. 確証バイアス
自分の考えに合う情報ばかりを集める性質です。
ある株を持っていると、その会社に好意的な記事ばかり目に入るようになります。悪いニュースは「一時的だ」と解釈します。
対処は1つあります。
買った理由と逆の材料を、自分で探してください。
「この会社が下げるとしたら、何が起きたときか」を書き出しておく。そしてそれが実際に起きたら、約束どおり判断を変える。
そのうえで、この理論から取るべきものを書いておきます。
自分は冷静だ、と思わないことです。
投資の失敗の多くは、知識不足ではなくこの性質から来ています。ノーベル賞をとった研究が示しているのは、それが人間に共通するということです。
だから、仕組みで防ぎます。 決めておく、注文を入れておく、金額を耐えられる大きさにしておく。判断力に頼らない設計が、いちばん確かな対処です。
関連する言葉
- 損切り(ロスカット) 損が出ている株を売って、損失を確定させること。傷が広がる前に止める行為。
- コツコツドカン 小さな利益を積み上げた後、一度の大きな損ですべて失うこと。勝率が高くても負ける形。
- お祈り 根拠なく上がることを願うだけの状態。判断をやめたときにこうなる。
- 塩漬け(しおづけ) 損が出た株を売るに売れず、長期間持ち続けてしまう状態のこと。
- チキン利食い 少し上がっただけで怖くなって売ること。損は小さいが、利益も小さいまま終わる。
- 最終更新
- 2026-09-18