アンカリング
最初に見た数字に判断が引きずられる性質。株では買値がその錨になる。
ひとことで言うと
最初に見た数字に、その後の判断が引きずられる性質のことです。
もう少しくわしく
アンカーは船の錨(いかり)のことです。錨を下ろすと、船はその場から動けなくなります。
同じことが、判断にも起こります。
株で最も強い錨になるのは、自分の買値です。
| よくある考え方 | 錨 |
|---|---|
| 「1,200円で買ったから、1,200円に戻るまで待つ」 | 買値 |
| 「去年3,000円だったから、いまの1,800円は安い」 | 過去の高値 |
| 「1万円まで下がったら買おう」 | 切りのいい数字 |
ここで問題があります。
市場は、あなたの買値を知りません。
1,200円で買ったのはあなただけです。その数字は株価の動きに何の影響も与えません。 会社の価値とも関係ありません。
それでも、その1,200円を基準に判断してしまいます。
実際の数字で見る
同じ株を、違う値段で買った2人がいます。いまの株価は1,000円です。
| Aさん | Bさん | |
|---|---|---|
| 買値 | 1,200円 | 800円 |
| いまの状態 | −200円 | +200円 |
2人が見ている株価は、まったく同じ1,000円です。 会社の中身も同じです。
しかし、感じ方がまるで違います。
| 考えること | |
|---|---|
| Aさん | 「あと200円戻れば損せずに済む」 |
| Bさん | 「200円の利益が消える前に売ろうか」 |
同じ情報を見て、正反対の行動をとります。
どちらも、いまの1,000円がその会社にとって妥当かどうかを考えていません。自分の買値からの距離を見ています。
そして、ここに正しい問いがあります。
いま現金で持っていたとして、この株を1,000円で買うか。
この問いには、買値が出てきません。 だから錨が効きません。
答えが「買う」なら持ち続ける理由があり、「買わない」なら持っている理由もありません。Aさんの−200円も、Bさんの+200円も、この判断には関係ありません。
ここに注意
錨は、買値以外にもあります。
1. 過去の高値
「去年3,000円だった株が1,800円。4割引だ」と考えるのは、過去の株価を基準にしているだけです。
その間に業績が半分になっていれば、1,800円でも高いかもしれません。比べるべきは過去の株価ではなく、いまの会社の価値です。
2. 切りのいい数字
「1万円になったら買う」「3,000円になったら売る」。
1万円という数字に、特別な意味はありません。 9,800円と10,200円で、会社の価値が変わるわけではありません。
それでも、こうした水準には注文が集まります。だからそこで値が止まりやすいという現象は実際に起きます。皮肉なことに、多くの人が同じ錨を持っているから、その水準が意味を持ってしまうのです。
3. 最初に見た株価
その銘柄を初めて見たときの株価も、錨になります。
「見つけたときは500円だった。いま700円だから高い」。500円は、あなたが偶然その日に見ただけの数字です。
4. 証券会社の画面の表示
取得単価が常に表示されているため、見るたびに錨が補強されます。
対処として、こういう方法があります。
買値を見ずに、その銘柄のチャートと決算だけを見る。
そのうえで「いま買うか」を考える。答えが変わるようなら、判断は買値に引きずられています。
もう1つ、実際的な対処を書いておきます。
買った理由を、買ったときに書き残してください。
| 書いておくこと |
|---|
| なぜこの会社を選んだか |
| 何が起きたら売るか |
| いくらまで下げたら見切るか |
これがあれば、下げたときに見るのは買値ではなく、その紙になります。
「戻ったら売る」は判断ではありません。買値が決めているだけです。
そして、プロスペクト理論とあわせて考えてください。損は利益の倍以上の重さで感じられ、その痛みが買値という錨に結びつきます。この2つが重なると、塩漬けが生まれます。
関連する言葉
- プロスペクト理論 損失を利益の2倍以上の強さで感じる性質。損切りできない理由を説明する。
- やれやれ売り 買値まで戻ってほっとして売ること。戻り待ちの売りが上値を重くする。
- 高値掴み(たかねづかみ) 株価が一番高いところで買ってしまい、その後の下落に巻き込まれること。
- 利は元にあり 利益は売値ではなく買値で決まるという教え。買った時点で勝負の大半がついている。
- お祈り 根拠なく上がることを願うだけの状態。判断をやめたときにこうなる。
- 最終更新
- 2026-09-18