デュポン分解
ROEを3つの掛け算に分けること。同じROEでも、中身が健全か借金頼みかが分かれる。
ひとことで言うと
ROEを3つの掛け算に分けて、どこで稼いでいるのかを見る方法です。
もう少しくわしく
ROE(自己資本利益率)は、株主から預かったお金でどれだけ利益を出したかの割合です。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
ROEが高い会社は良い会社、とよく言われます。しかし高い理由は1つではありません。
そこで、この式を3つに分けます。アメリカのデュポン社が使い始めたとされるため、デュポン分解と呼ばれます。
それぞれの中身はこうです。
| 名前 | 計算 | 表しているもの |
|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 純利益 ÷ 売上高 | 1回売るごとにどれだけ儲かるか |
| 総資産回転率 | 売上高 ÷ 総資産 | 持っている財産で何回売れるか |
| 財務レバレッジ | 総資産 ÷ 自己資本 | 借金をどれだけ使っているか |
掛け合わせると、途中が打ち消し合ってROEに戻ります。
(純利益 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 総資産)×(総資産 ÷ 自己資本)
売上高と総資産が上下で消え、純利益 ÷ 自己資本、つまりROEが残ります。
同じ答えを3通りの道筋で出しているだけです。しかし、どの道筋で稼いでいるかが分かります。
実際の数字で見る
ある会社の数字です。
| 金額 | |
|---|---|
| 当期純利益 | 80億円 |
| 売上高 | 1,000億円 |
| 総資産 | 1,200億円 |
| 自己資本 | 500億円 |
まずROEを直接計算します。
80億円 ÷ 500億円 = 16.0%
次に3つに分けます。
| 要素 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 80 ÷ 1,000 | 8.0% |
| 総資産回転率 | 1,000 ÷ 1,200 | 0.83回 |
| 財務レバレッジ | 1,200 ÷ 500 | 2.40倍 |
掛け合わせます。
0.080 × 0.833 × 2.40 = 0.160 = 16.0%
直接計算した16.0%と一致します。
ここからが本題です。ROEが同じ16%の会社を3社並べます。
| A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 8.0% | 2.0% | 8.0% |
| 総資産回転率 | 0.83回 | 4.00回 | 0.50回 |
| 財務レバレッジ | 2.40倍 | 2.00倍 | 4.00倍 |
| ROE | 16.0% | 16.0% | 16.0% |
3社ともROEは16%です。しかし中身はまったく違います。
| 稼ぎ方 | |
|---|---|
| A社 | バランスが取れている |
| B社 | 薄利多売。1回の儲けは薄いが、たくさん売る |
| C社 | 借金で膨らませている |
C社の財務レバレッジ4.00倍は、自己資本比率が25%ということです。
自己資本比率 = 1 ÷ 財務レバレッジ = 1 ÷ 4.00 = 25%
C社は、借金を増やしただけでROE16%を作っています。
もし借金を減らして財務レバレッジを2.00倍にすれば、ROEは8%に落ちます。
ROEという1つの数字だけを見ていたら、この3社の違いは分かりません。
ここに注意
借金を増やせば、ROEは上がります。それだけで上がります。
これがいちばん大事な点です。
会社が借金をして自社株買いをすると、次のことが同時に起きます。
| 起きること | ROEへの影響 |
|---|---|
| 自己資本が減る | 分母が小さくなる → ROEが上がる |
| 総資産に対する借金の比率が上がる | 財務レバレッジが上がる |
事業は何も良くなっていません。 それでもROEは上がります。
「ROE8%以上を目指す」と掲げた会社が、借金で自社株買いをしてROEを上げることは、実際に起こります。
だから、ROEが上がったときは必ず、3つのどれが上がったのかを確かめてください。
| 上がった要素 | 読み方 |
|---|---|
| 売上高純利益率 | 本業の収益力が改善した。良い変化 |
| 総資産回転率 | 無駄な資産を減らした。良い変化 |
| 財務レバレッジ | 借金が増えただけ。要注意 |
もう3つ、知っておいてください。
1. ROAを見れば、借金の影響を外せます。
ROA(総資産利益率)は、売上高純利益率 × 総資産回転率です。財務レバレッジが入りません。
| 含むもの | |
|---|---|
| ROA | 利益率 × 回転率(借金の影響なし) |
| ROE | ROA × 財務レバレッジ |
ROEは上がっているのにROAは横ばいという会社は、借金で持ち上げている可能性があります。
2. レバレッジが悪いわけではありません。
借金を使うこと自体は、経営の道具です。利息より高い利回りで運用できるなら、借りたほうが株主の取り分は増えます。
問題は、業績が落ちたときに逆に働くことです。レバレッジ4倍の会社は、利益の落ち込みも4倍に効きます。
3. 5段階に分ける方法もあります。
税負担や利息の影響をさらに分ける、5段階のデュポン分解もあります。ただし個人が使う範囲では、3つで十分です。
まず3つで見て、気になる要素があればそこを掘り下げるほうが実用的です。
そのうえで、この方法の使い方を書いておきます。
1社の中身を見るだけでなく、同業他社と3つの要素を並べてください。
同じ業種なら、総資産回転率はだいたい似た水準になります。商売のやり方が同じだからです。
そこで差がつくのは、売上高純利益率です。ここが高い会社は、値段を下げずに売れているということになります。
| 比べる要素 | 分かること |
|---|---|
| 売上高純利益率の差 | 商品の強さ、価格を守れているか |
| 総資産回転率の差 | 資産の使い方の巧拙 |
| 財務レバレッジの差 | どこまで借金に頼っているか |
3つを並べると、ROEという1つの数字では隠れていた差が見えます。
関連する言葉
- ROE(自己資本利益率) 株主から預かったお金を使って、1年でどれだけ利益を出せたかを示す割合。
- ROA(総資産利益率) 会社が持つ資産全体で、どれだけ利益を生んだかを示す割合。借金の影響を受けないROE。
- 総資産回転率 持っている財産を、1年で何回売上に変えたかを示す数字。ROAを分解すると出てくる。
- 自己資本比率 会社の財産のうち、借金でない部分がどれだけあるかを示す割合。高いほど倒れにくい。
- 有利子負債 利息を払う必要がある借金。多すぎると、金利が上がったときに利益を削られる。
- 最終更新
- 2026-09-18