株主資本コスト
株主が最低限求めるリターン。ROEがこれを下回ると、稼いでいても価値を削っている。
ひとことで言うと
株主が「これくらいは返ってきて当然だ」と考える、最低限の見返りのことです。
もう少しくわしく
会社がお金を借りると、利息を払います。これは目に見える費用です。
では、株主から集めたお金には費用がかからないのでしょうか。
かかります。 ただし、目に見えません。
株主は、リスクをとって出資しています。銀行預金より高い見返りを期待しています。
その期待している水準が株主資本コストです。決算書には載りません。 しかし確かに存在します。
日本の会社では、おおむね6〜8%程度とされることが多いようです。会社によって違い、値動きの激しい会社ほど高くなります。
そして、これがROEと結びつきます。
ROE − 株主資本コスト
この差をエクイティスプレッドといいます。
| 差 | 意味 |
|---|---|
| プラス | 株主の期待を上回っている。価値を生んでいる |
| ゼロ | ちょうど期待どおり |
| マイナス | 稼いではいるが、期待に届いていない |
実際の数字で見る
株主資本コストを8%として、3社を比べます。
| ROE | 差 | 見方 | |
|---|---|---|---|
| A社 | 12% | +4ポイント | 価値を生んでいる |
| B社 | 8% | 0 | とんとん |
| C社 | 5% | −3ポイント | 価値を削っている |
C社に注目してください。ROE5%は、赤字ではありません。 株主のお金100億円で5億円稼いでいます。
しかし株主は8億円を期待していました。 3億円足りません。
黒字なのに、株主から見れば期待外れなのです。
このとき、株価はどうなるか。
期待に届かない会社の株は、買われません。
結果としてPBRが1倍を割りやすくなります。「純資産100億円の会社なのに、株式市場での値段は80億円」という状態です。
ROEと株主資本コストの関係が、PBRに表れます。
ここに注意
株主資本コストは、正確には計算できません。
よく使われるのはCAPMという考え方です。
株主資本コスト = 安全な利回り + β ×(市場全体の上乗せ分)
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 安全な利回り | 国債の利回りなど |
| β(ベータ) | その株が市場全体に対してどれだけ大きく動くか |
| 市場全体の上乗せ分 | 株式に投資することへの見返り |
問題は、どれも1つに決まらないことです。
- 国債は何年物を使うのか
- βは何年分のデータで測るのか
- 市場全体の上乗せ分は、誰にも分かりません
計算する人によって、同じ会社で6%にも10%にもなります。
だから、「株主資本コストは8%です」と断定する数字を鵜呑みにしないでください。 前提しだいで動きます。
では、投資家はこの考え方をどう使うのか。3つあります。
1. ROEの水準を判断する基準にする。
「ROE8%は良いのか」という問いに、単独では答えられません。 株主資本コストと比べて初めて意味が出ます。
目安として、ROE8%以上が1つの区切りとされることが多いのは、株主資本コストがその程度と考えられているためです。
2. 会社がこれを意識しているかを見る。
近年、自社の株主資本コストを開示する会社が増えています。決算説明資料や統合報告書に書かれていることがあります。
書いている会社は、意識しています。 書いていない会社が悪いとはかぎりませんが、差は出ます。
3. 現金の使い道を見る。
株主資本コストを下回っている会社が、現金を貯め込み続けているなら、問題です。
そのお金を株主に返せば(自社株買いや増配)、株主はそれを別のところで運用できます。会社の中に置いておくより、そのほうが株主のためになるという理屈です。
これが、近年の自社株買いの増加や、東証が上場企業に求めている「資本コストを意識した経営」の背景にあります。
最後に、この言葉の性質を書いておきます。
株主資本コストは、会社が払う費用ではなく、株主が求める水準です。
払っていないから損はしません。しかし応えられなければ、株を持つ理由がなくなります。 株価はそれを反映します。
関連する言葉
- ROE(自己資本利益率) 株主から預かったお金を使って、1年でどれだけ利益を出せたかを示す割合。
- PBR(株価純資産倍率) 会社が持っている正味の財産に対して、株価が何倍かを示す数字。1倍割れは割安とされる。
- ROIC(投下資本利益率) 事業に投じたお金が生む利益率。資金を集める費用(WACC)を上回っているかで見る。
- 自社株買い 会社が自分の会社の株を市場から買い戻すこと。1株あたりの価値が高まる。
- コーポレートガバナンス・コード 上場企業が守るべき行動原則。法律ではなく、従うか説明するかを選ぶ形をとる。
- 最終更新
- 2026-09-17