知ったらしまい
自分がその話を知ったときには、すでに株価に入っている。情報が届く順番の話。
ひとことで言うと
自分がその情報を知った時点で、すでに株価に反映され終わっている、という戒めです。
もう少しくわしく
「知ったらしまい」は、江戸時代から伝わる相場格言とされます。
似た言葉に「噂で買って事実で売る」があります。2つは近いのですが、見ているところが違います。
| 格言 | 何を言っているか |
|---|---|
| 噂で買って事実で売る | 発表の前後で、株価の向きが変わる |
| 知ったらしまい | 自分に届いた時点で、もう遅い |
前者は時間の話、後者は順番の話です。
情報は、全員に同時には届きません。 順番があります。
| 順番 | 誰が知るか |
|---|---|
| 1 | 会社の中の人(法律で売買が制限されます) |
| 2 | 公表と同時に見ている人(機関投資家、専門の報道) |
| 3 | 数分〜数時間後に読む人 |
| 4 | SNSやまとめサイトで知る人 |
| 5 | 「話題になっている」と聞いて知る人 |
4番や5番で知ったとき、株価はすでに動き終わっています。
これが「知ったらしまい」の中身です。情報が悪いのではなく、届く順番が遅いのです。
実際の数字で見る
ある会社が、取引時間外に上方修正を発表したとします。
| 時点 | 株価 | 誰が動いているか |
|---|---|---|
| 前日の終値 | 1,000円 | — |
| 発表(取引時間外) | — | — |
| 翌日の寄り付き | 1,180円 | 発表を読んだ人 |
| 30分後 | 1,215円 | 報道を見た人 |
| 昼ごろ | 1,190円 | SNSで知った人が買い始める |
| 大引け | 1,140円 | 早く買った人が売っている |
SNSで知って昼に買った人の成績を見ます。
| 値 | |
|---|---|
| 買値 | 1,190円 |
| 大引け | 1,140円 |
| 1日での損 | −4.2% |
良い知らせだったのに、損をしています。
発表そのものは本物でした。上方修正も事実です。しかし、その事実は寄り付きの時点で1,180円に入っていました。
1,000円から1,180円への18%の上げは、すでに終わっていたのです。
ここに注意
「知るのが早ければ勝てる」という結論に進まないでください。
この格言は、速さの競争を勧めているわけではありません。
速さで勝とうとすると、行き着く先は2つしかありません。
| 進む先 | 問題 |
|---|---|
| 公表前の情報を取りにいく | インサイダー取引。犯罪です |
| 1秒でも速く反応する | 会社どうしの装置の勝負。個人には無理 |
1つ目は絶対にやってはいけません。 会社関係者から公表前の情報を聞いて売買すれば、聞いた側も罰せられます。
2つ目は、やっても勝てません。 発表から数ミリ秒で発注する仕組みを持つ相手と、個人が速さで競うことはできません。
では、個人はどうすればよいのか。土俵を変えることです。
速さで勝てないなら、時間の長さで勝負してください。
速さの勝負は、数分から数日の世界です。ここは装置と情報の速さで決まります。
一方、数か月から数年の世界は、速さで決まりません。
| 勝負する時間 | 何で決まるか | 個人に勝ち目は |
|---|---|---|
| 数秒〜数分 | 装置の速さ | ない |
| 数日 | 速さと資金量 | 薄い |
| 数か月〜数年 | 会社の中身の読み | ある |
数年後の業績は、発表の瞬間に織り込めるものではありません。 誰も知らないからです。
公表された決算書を読んで、5年後を考えるという作業には、速さの競争がありません。時間をかけてよいのです。
もう3つ、知っておいてください。
1. 「知ったらしまい」が当てはまらない場面もあります。
| 情報の種類 | 反映の速さ |
|---|---|
| 決算・業績修正・買収 | 数分から数日で入る |
| 制度の変更 | 数週間から数か月 |
| 地味な会社の地味な改善 | 年単位でかかることもある |
注目されていない会社では、良い決算が出ても株価がすぐ動かないことがあります。見ている人が少ないからです。
閑散に売りなしという格言が指しているのも、この状態です。
2. 「まだ誰も知らない情報」という話には近づかないでください。
SNSや有料の情報配信で、「まだ表に出ていない話」として売られるものがあります。
そういうものは、たいてい次のどれかです。
| 中身 | 実際 |
|---|---|
| 作り話 | 買わせて自分が売る |
| すでに公表されている話 | 新しくない |
| 本当に未公表の内部情報 | 使えば犯罪 |
どれを取っても、投資家の利益になりません。
3. 適時開示は誰でも同時に読めます。
適時開示の仕組みは、全員が同時に知るために作られています。証券取引所のサイトで、誰でも無料で読めます。
「情報が遅い」と感じるなら、SNSではなく、開示を直接読んでください。 順番で4番や5番だったものが、2番になります。
そのうえで、この格言の使い方を書いておきます。
「いま話題になっている」という理由で買おうとしたときに、思い出してください。
話題になっているということは、多くの人がすでに知っているということです。あなたが知ったのは、その後です。
| 買う理由 | この格言が当てはまるか |
|---|---|
| 話題になっているから | 当てはまる。もう遅い |
| 急騰しているから | 当てはまる。もう遅い |
| 決算書を読んで安いと判断した | 当てはまらない |
| 何年も見てきて、いまの値段なら買うと決めていた | 当てはまらない |
下の2つには、情報の速さが関係していません。 だから遅れようがないのです。
関連する言葉
- 噂で買って事実で売る 発表を見込んで上がり、いざ発表されると売られること。良い内容でも下がる理由。
- イナゴ 話題になった銘柄に短時間で群がり、急騰させてすぐ去っていく投資家たちのこと。
- 適時開示 会社が重要な情報をその都度公表する制度。株価に影響する発表は、必ずここを通る。
- インサイダー取引 公表前の重要情報を知って売買する犯罪。知人から聞いた場合も処罰の対象になる。
- 株は木で買って紙で売れ 人気のないときに買い、人気で舞い上がったときに売れという格言。「人気がない」の中身を見分ける必要がある。
- 最終更新
- 2026-09-18